政府が新たな脱炭素戦略「「GX2040ビジョン」のたたき台を示しました。データセンターの電力需要を賄うために脱炭素電源の投資支援を追加、再エネ電源近くの産業立地への支援、排出量取引の義務化を含めた具体化などが柱です。
「政府は27日、脱炭素社会の構築に向けた施策を検討する「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」(議長・岸田文雄首相)を首相官邸で開いた。斎藤健GX実行推進担当相は、年末に取りまとめる国家戦略「GX2040ビジョン」のたたき台を示した。たたき台には、再生可能エネルギーや原発といった脱炭素電源へ事業者が投資をしやすくなるための環境整備など、論点となる10項目が列挙された。」(時事ドットコム 2024年8月27日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024082700692&g=eco
・なぜ新たな脱炭素戦略? 方向性は? 目玉は?
5月14日のニュース・ブリーフで紹介した通り、政府は昨年に作ったばかりの脱炭素戦略をもう新しく変えることになりました。背景にあるのは、海外IT大手も日本国内で投資を始めるAIデータセンター等の電力需要が今後増えるために脱炭素電源である再エネと原発を増やす必要が出てきたこと、これまでの脱炭素戦略が2030年までの内容となっていたのに対して、経団連から2040年までの計画が必要だと言われたこと等があります。
内閣官房GX実行会議 siryou1.pdf (cas.go.jp)
このため、脱炭素戦略を新たに作ることになりました。担当しているのは内閣官房のGX実行会議で、経済産業省が主導しています。昨日示されたのは、脱炭素戦略の議論の「たたき台」という位置づけで、10個の論点について、だいたいの方向性が資料に書かれています。
10項目は、①脱炭素の大型電源に対して事後的に増えたコストを支援する仕組みの導入、②脱石炭火力と天然ガスの調達安定化、③再エネ資源が豊富な地域への幅広い経済支援、④次世代エネルギー源の確保や水素等の利用拡大策、⑤半導体等について経済安全保障上のサプライチェーン強化、⑥データセンター・半導体のエネルギー効率改善、AIデータセンターの国内整備、⑦産学でのイノベーション支援、⑧多排出産業の排出量取引への参加義務化などカーボンプライシングの具体化、⑨アジア諸国との国際ルール形成、⑩欧米の情勢も踏まえた現実的な脱炭素化、となっています。
閣官房GX実行会議 siryou1.pdf (cas.go.jp)
①の脱炭素電源への投資支援は、8月21日のニュース・ブリーフでも紹介した政策で、原発等の投資支援として、既存の容量市場と長期脱炭素電源オークションという制度に加えて、事後的に費用が増加した場合でも支援する新たな仕組みの導入を検討するということです。
③の産業立地への支援は、偏在する再エネの適地への広域単位での支援策を作る、ということです。
以下の通り、化石燃料が使われた高度成長時代には、いわゆる太平洋ベルト地帯に石化コンビナートが集中していたのに対して、再エネ電源に応じた地域支援なら、北海道・東北・九州など幅広い地域での産業集積が見込めそうです。
閣官房GX実行会議 siryou1.pdf (cas.go.jp)
⑧のカーボンプライシング義務化については、日本の現状では排出量取引への参加が任意のため、多排出なのに参加していない産業があることから不公平感が産業界で高まっていたこともあり、「公平かつ実効的な制度」として、義務化の方向での検討を行うとしています。
全体として脱炭素化が推進しそうな内容ですが、最後の⑩では、現実的な範囲で進めるとしており、「多排出産業の生産減少を国内需要減に伴う減少程度にとどめ、GX製品を含む日本の高付加価値製品による海外市場開拓を加速させる」として、こうした前提が整わない状況において、脱炭素の取組のみを先行させることはしない姿勢も示しています。
このあたりが、「多排出産業」の既得権保護につながらないか、注視する必要がありそうです。
また、⑨の国際ルール形成は、東南アジアを巻き込んで緩い脱炭素化ルールにしたいようですが、日本政府の発信等の能力では欧米主導のルールに対抗するのは無理でしょうし、安全保障上も欧米とは脱炭素でむしろ協調すべきでしょう。このたたき台でも、欧米でも負担が大きすぎたら脱炭素政策の強行を避け始めているという認識を示しているのですから、なおさらです。