・国連安保理、ガザ戦闘一時停止の決議案を否決 国連人権高等弁務官事務所、イスラエルの国際法違反を懸念
（メール配信サービス「ニュース・ブリーフ」の一部記事を紹介します。配信時の2つの記事を1つにまとめています。）
国連安保理が、議長国ブラジル提案のガザでの戦闘を一時停止すべきという決議案を否決しました。賛成12票、フランスと日本さえ賛成しましたが米国が拒否権を行使、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしました。一方、国連人権高等弁務官事務は、イスラエルによるガザ完全包囲と北部住民への避難指示が国際法違反になる可能性があると述べています。
「国連安全保障理事会は１８日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突を巡り、パレスチナ自治区ガザへの援助提供を可能にするため、紛争の人道的な一時停止を求めるブラジルの決議案を否決した。米国が拒否権を行使した。」（ロイター日本版2023年10月18日）
国連安保理、ガザ戦闘一時停止要請の決議案否決 米が拒否権行使 | ロイター (reuters.com)
国連安保理での各国のスタンスにつき、国連のウェブサイトから紹介します。
この決議案はブラジル提出のもので、ガザの数百万人に救命援助を届けるための「人道的一時停戦」を求めるものでした。安保理の理事国15国のうち12国が賛成票を投じましたが、米国のみが反対票を投じ、2国（ロシアと英国）が棄権しました。
棄権したロシアは前日に自国の提案が拒否されたことに苦言を述べ、ブラジル案には「停戦を求める明確な内容はなく」、「流血を止めるのには役立たない」等と述べました。
問題のアメリカですが、リンダ・トーマス・グリーンフィールド米国大使は、「この決議はイスラエルの自衛権について言及していない」と拒否権発動の理由を説明しました。同氏は、国連憲章第51条に反映されているように、イスラエルには固有の自衛権があり、その権利は安保理がこれまでのテロ攻撃に関する決議で再確認していると指摘し、「今回の決議でも同様にすべきだった」と述べました。同氏は、米国は決議案を支持することはできなかったものの、この危機に関して理事国全員と緊密に連携し続けると述べてはいます。
提案者ブラジルの大使は、10月の安全保障理事会議長として、危機への団結した対応を築くよう理事会メンバーらの呼びかけに応じたとして、人道的大惨事に直面して理事会が麻痺することは国際社会の利益にならない、非常に残念なことに、理事会はまたしても危機に関する決議を採択できず、再び沈黙と無策が蔓延したと、米国を暗に非難しました。
イギリスは棄権でした。英国大使は、文言はイスラエル固有の自衛権についてより明確にする必要があり、ガザを支配する過激派組織ハマスがパレスチナ民間人を人間の盾として利用しているという事実を無視しているため、自国は決議案を棄権したと述べました。基本的に米国と同じ主張ですが、反対まではいかずに、賛成した各国にも配慮した形です。
理事会で唯一のアラブ人であるUAE大使は、同国が決議案に賛成票を投じたのは、決議案が完璧な文言だからではなく、遵守すべき基本原則が明確に述べられているからだと述べました。彼女は、病院爆破の死者数に言及し、この破滅的な戦争の時間が経過するたびに、国際人道法の原則が嘲笑されている、と訴えました（UN News, October 18, 2023）。
Israel-Gaza crisis: US vetoes Security Council resolution | UN News
CNNは、米国が拒否権行使によって、「強力な国際機関の政治的麻痺に対する批判をさらに引き起こした」として、安保理の何人かのメンバーが、決議案の否決に対する失望と不満を表明した、と批判的に報じています。フランス大使が、否決を深く遺憾に思うとして、「私たちはイスラエルが自らを守る権利を完全に認めています。他方で、民間人を保護し、人道的アクセスを認め、国際人道法とジュネーブ条約の完全な尊重を求めることは、全く矛盾ありません。これは基本的にこの決議案が述べていたことです」と発言したことが紹介されています（CNN News, October 18, 2023）。
US vetoes Security Council call for 'humanitarian pause' in Israel-Hamas war | CNN
今回の決議案には、ロシアやグローバルサウス各国はとにかく、イギリスさえ完全には米国に同調せずに棄権、米国とは時々対立もするフランスばかりか、安全保障政策では普段は米国と歩調を合わせる日本まで賛成した決議案に拒否権を行使したので、米国の突出ぶりが際立つ形となりました。
米国にとってそれだけイスラエルは重要ということらしく、安保理での行動だけでなく、今後の米国の安全保障政策も変わる可能性が指摘されています。ウォールストリート・ジャーナルは、今回の紛争によって、米政府が中国・ロシアへの対応から、再び中東で展開する軍事力を増強することになるだろうと予想しています（ウォールストリート・ジャーナル日本版2023年10月18日）。
なお、国連人権高等弁務官事務所のラヴィナ・シャムダサニ報道官は、イスラエルによるガザ完全包囲と北部住民への避難指示が国際法違反になる可能性があるとして、以下のように述べています。
「現在、ガザで国内避難民がさまざまな場所に避難しており、そのうちのいくつかの避難所はUNRWAの建物にあります。国際法は、占領国であるイスラエルが、住民の安全または不可避の軍事的理由に基づいて地域を合法的に一時的に避難させるには、衛生、健康、安全、栄養の満足のいく条件の下で行われるすべての避難者に適切な宿泊施設を提供しなければならないと要求しています。しかし、移動を命じられた数十万人の民間人のためにこれを確実に提供するためのイスラエルによる試みはなかったようです。我々（人権高等弁務官事務所）は、この命令とガザへの「完全な包囲」が、合法的な一時的避難とは見なされず、したがって、国際法に違反する民間人の強制移送に相当することを懸念しています。」
Latest: Occupied Palestinian Territory/Israel | OHCHR
つまり、イスラエルは現在、ガザを占領している状態で、占領国は国際法上の義務として、住民を安全のために一時的に避難させることが出来るが、その際には食糧や住居等を提供する義務があるのに、イスラエルはその義務を果たしていない、この場合、国際法が禁ずる「強制移住」となる恐れがある、と厳しく指摘しています。
ワシントン・ポストは、人権高等弁務官事務所のコメントにつき、上記の「強制移送（forcible transfer）」という用語は民間人の強制移住を指し、国際刑事裁判所によって処罰される人道に対する罪だと指摘、ブリンケン国務長官が中東を歴訪している間、数人のアラブ指導者がパレスチナ人がガザから永久に移送される可能性について懸念を表明したと報じています。エジプトへの避難を試みているガザの民間人の中にも、もう戻れないのではないかという心配の声があるとも伝えています（Washington Post, October 17, 2023）。
U.N. warns Israel’s Gaza evacuation could breach international law - The Washington Post
イスラエルによるガザ北部住民への移住要請が、国際法違反の強制移住にあたるという主張は、ノルウェー難民評議会の事務総長によってもされています。同事務総長は、イスラエル軍がガザ北部の民間人に南部へ移住するよう要求しているが、安全や帰還の保証もないならば、強制移送という戦争犯罪に相当するので撤回するべきだと声明を出しています。声明の中では、イスラエルの政治的・軍事的指導部に影響力を持つ米国、英国、欧州連合、その他の西側諸国とアラブ諸国は、違法で不可能な移転命令を直ちに撤回するよう要求しなければならない、とも述べています。
Israeli ultimatum to Gaza must be reversed - occupied Palestinian territory | ReliefWeb
ABCニュースは、ハマスとイスラエルの双方が国際法に違反したとして非難されており、国連が全ての当事者による戦争犯罪の証拠を収集していると報じています。問題となっているのは二つの国際法で、一つは、ジュネーブ条約を含む国際人道法で定められた民間人・負傷者・捕虜への人道的扱いです。もう一つは国際刑事裁判所に関するローマ規程で、民間人・民間人居住地等への意図的な攻撃、軍事的に必要でない財産の破壊、性的暴力、違法な国外追放を戦争犯罪として禁止しているルールです。ハマスについては、イスラエルの町や都市に数千発のロケット弾を発射し、国境を越えて数百人の武装集団を送り込んで、子供や高齢者を含む民間人を自宅や近所で攻撃して殺害し、大勢を誘拐したことが明らかに戦争犯罪だとされています。一方、イスラエル軍についても、ガザ空爆と生活必需品の搬入素子、及び、前述のように北部住民に移住を要求したことが戦争犯罪に当たり得るとされています（ABC News, October 18, 2023）。